中朝国境地帯を横断してみた - ③両江道道都/恵山市の対岸・長白
※前回の続きです。
両江道道都・恵山市の対岸 長白
翌日は6時前に起き、バスターミナル目の前の粥屋で腹ごしらえをした後、長白行きのバスに乗り込んだ。いよいよ、今回のメイン目的地であり、鉄道も通っていない辺境中の辺境・長白県へ向かう。
朝6:30に出発したバスは、中朝国境を成す鴨緑江に沿った道路をひたすら東へ向かう。右側の席に陣取ったので、車窓からは対岸・北朝鮮の村々の様子がよく見えた。
このあたりは鴨緑江の上流なので、両岸ともに山がちな地形が続いているが、しばらく走るうち、中国側と北朝鮮側の明白な差異に気付かされた。
中国側の山には木々が生い茂っているのに対して、北朝鮮側の山には木が不自然なほど少ない。いわゆるハゲ山である。北朝鮮は化石燃料が希少なので、すべて薪にされてしまったのだろうか。あるいは、国境地帯なので見通しを良くするために伐採されたのだろうか。
北朝鮮側には数百mおきに必ず国境警備兵の見張り台があったが、中国側には延々とフェンスが連なるのみで、兵士の姿はやはりほとんど見当たらなかった。
しばらく走るうち、対岸に鉄道が走っているのが見えるようになった。線路は電化されている。その辺りの鉄道に詳しい人によると、北朝鮮の鉄道の電化率は高いらしい。ただでさえ電気が足りないのに、正常に運行できるほど行き届いているのだろうか。
線路沿いの大きな集落1つごとに小規模な駅があり、どの駅にも必ず金日成と金正日の肖像画が掲げられている。あと数十年すると、金正恩の肖像画も掲げられるようになるのだろうか。それとも、南北統一が先か。
鴨緑江沿いを走ること5時間弱、対岸に都会的な施設が並んでいるのが見え始めると、長白の中心部へ出た。臨江よりもさらに一段階小さな街で、正真正銘の辺境だ。
まずはバスターミナルへ向かい、翌日の切符を購入した。
できればバスも鉄道のように事前購入したいものだが、長距離バスは鉄道同様身分証情報を照合する必要があるため、われわれ外国人は窓口で購入するほか為す術がない。
モバイル決済等便利なシステムの外国人に対する機能制限もそうだが、基本的に中国の全体主義管理社会は外国人に優しくない。
切符を確保し、予約したホテルへ向かおうとすると、途中の道の舗装が全て剥がされていた。どうやら街中で大規模な舗装工事をやっているようだ。
すると突然、放水車がやってきて、盛大に水をぶっかけられてしまった。砂塵が舞わないように撒いているのだろうが、もう少し歩行者に気を使ってほしいものだ。
ホテルに荷物を置いて一息ついたのち、鴨緑江沿いに散策を開始した。
鴨緑江のこちら側・長白県は小さな朝鮮族自治県だが、対岸の恵山市は北朝鮮・両江道の道都であり、規模が大きい。両江道の「江」は「鴨緑江」と「豆満江」を指しており、両河川の源流がある白頭山(中国名:長白山)を擁する道である。
白頭山は朝鮮民族にとって象徴的な山とされ、北朝鮮の金一族による世襲の正当化にも用いられている*1。最近*2では、韓国大統領の文在寅が金正恩とともに白頭山を訪れたことが話題となった。白頭山の中国側は既に観光地化が進められているが、北朝鮮側から観光でアクセスできるようになる日も遠くないのかもしれない。
鴨緑江の中国側にはなんと遊歩道が整備されており、対岸を眺めろと言わんばかりだ。これまでの国境景観と異なるのは、対岸に多くの集合住宅や大型施設・工場が見られ、北朝鮮の都市的景観を眺めることができる点である。
これまでで最上流の地点であるため当然川幅も狭く、対岸との距離はまさに目と鼻の先だ。山奥まで来た甲斐あって、かなり満足度の高い限界国境ビレッジである。
鴨緑江沿いに歩いていたら、なんと偶然にも朝鮮の電車に遭遇しました!
— はまとく@コミアカ19受付中 (@hamatoku205) May 4, 2018
一両編成でスピードは早くなく、人避けのためか延々と警笛を鳴らしながら走行していました #はまとく中朝国境行 pic.twitter.com/9bDzQ7Dr6x
川沿いに歩いていくと、鴨緑江にかかる橋が見えてきた。この街にも国境がある。
中国側の国門も立派だが、北朝鮮側のチェックポイントも心なしか張り合っているように見える。やはり道都のプライドがあるのだろうか。
ただ、国境の橋は頻繁な往来があるようには見えず、僕が見たのは事務職員か何かが一人渡っている様子だけだった。
川の向こうは相変わらず百メートルおきに警備兵が立っている(こちら側には警官一人歩いていない)が、川まで降りて衣類の洗濯をしたり、髪の毛を洗ったりする恵山市民の姿も見られる。川を渡ろうとしなければ、水を使うのは自由なのかもしれない。上水道が整備されていないということなのだろうか。
川沿いを一通り歩いた後、口岸(チェックポイント)の近くの開発地区を通ってみた。
辺り一面、工事現場と新築の高層建築が立ち並ぶ。さほど大きくない山奥の県なので、この状況には正直驚いた。
しかし、長白県自体は小さな街とは言え、対岸には北朝鮮の道都がある。もし中国当局が北朝鮮の経済開放を見越しているのだとすれば、この大規模な開発方針も頷けるものだ。
昨今の朝鮮半島融和の動きが、中朝国境地帯の経済に対してプラスに働いていることは間違いないだろう*3。
開発地区を見た後は河畔から一旦離れ、町外れの丘の上にある塔山公園へ向かった。もちろん、ただ山登りがしたいわけではない。
長い坂道と、これまた気の遠くなるような長さの階段を登りきった先には、観日台という名前の展望台と霊光塔があった。
この観日台から川の方を振り返ると、長白・恵山両方の街並みを一望することができた。まさに絶景である。
山の中にまであるプロパガンダ文字や、オールド社会主義感満載の集合住宅など、北朝鮮ならではの都市景観を目に焼き付け、日没が迫っていたので急いで下山した。
夕飯は、朝鮮族で伝統的に食べられているとある動物のスープに挑戦してみた。文化圏によっては愛玩動物として食用が忌避されているので敢えてここには書かないが、味はそんなに美味しくも不味くもなかった。
~次回に続きます~